ネットで「放射能の影響を減らすのに1日2杯の味噌汁が効く」という噂が流れていますね。ネタ元は長崎の医師、秋月辰一郎氏の体験のようですね。
秋月先生は長崎で被曝。放射線の影響を避けるために、毎日味噌汁を食べ続けたそうです。自分だけでなく、家族や病院の職員、患者さんにも指導しその効果を確信したとか。先生の御著書『食物と体質』の中で、彼らが「いわゆる原爆症が出ないのは、その原因の一つは、『わかめの味噌汁』であったと私は確信している」と書いていらっしゃいます。
もともと病弱だったようで、西洋医学以外の健康法に興味があったようです。次のようにも書いておられます。
国内に医師が不足していたため、3か月安静にしたのみで、
病床から脱した。
そして、医師として働き出した。
結核があったのにもかかわらず、
軍隊に入隊したり、原爆に被爆したりとした。
その間、相当以上の無理をした。
病弱であったが、 わかめと揚げを
実とした味噌汁が私の身体の要であるから、
自分の病床は悪化しないという確信があった。
また、事実その通りであった。
(『食物と体質』P21~22)
『味噌汁が放射能に効く』という考えが広まったのは、チェルノブイリの事故後に先生の本が英訳されてヨーロッパで話題になり、味噌の輸出が増えたという話が逆輸入されたからのようです。『AERA』という雑誌の6月13日号で、「放射能とがん」という特集が組まれたのですが、そこで紹介されてネットでも広まったようです。
しかし、「味噌汁が放射能に効く」とか「味噌の輸出が増えた」というのは検証されているのでしょうか?
まず味噌の輸出ですが、財務省の貿易統計を見てみますと、確かに年々増えています。
しかしこれはチェルノブイリの事故前から増え始めていますし、事故後に急上昇したというわけではありません。有意な相関関係は見られません。おそらく海外の日本食ブームや在外日本人・日系人の消費増で増えたものだと思われます。。
この増加を「チェルノブイリの事故後の放射能対策に増えた」というのに置き換えたようです。最初に紹介した方の誤解か、味噌の製造業者の陰謀か・・・どちらかわかりませんが。マクロビオティックが欧米で流行っているので、その影響も考えられます。
放射能と味噌の関連を調べた論文は、「味噌の科学と技術」(全国味噌技術会発行)という雑誌に掲載された、渡邊敦光教授のもののようです。まず1989年7月に、続いて1991年1月に発表されました。
マウスに与えていた食事を、乾燥重量で10%を味噌に置き換え、高線量の放射線を照射します。照射したマウスと、そうで無いマウスの小腸の粘膜を調べると、味噌を与えていた小腸粘膜幹細胞の生存率が高かったというものです。
この実験のポイントは4っつほどあります。
まず、生存率が高かったのは、小腸粘膜幹細胞の生存率であって、生存日数ではありません。生存日数は統計学的に有意な差は確認できています。。
二つ目は、マウスでの結果を人間で検証せずに、人間にあてはめていいのか?ということです。
三つ目は食事の乾燥重量で10%という量です。1日の食事量を仮に1500gとすれば、150gの味噌に相当します。放射能の影響云々の前に、塩分過多で腎臓をやられそうです。
四つめはマウスが死に至るような"高線量"のケースについて、味噌食の効果を調べたものであるということです。現在の私たちが問題にしているのは低線量のケースです。高線量のX線を浴びたマウスの実験結果で、今の私たちの暮らしへの影響を推し量ることはできないでしょう。
以上のことから、味噌汁が放射能に効くという医学的根拠はないということです。
しかし、みそ汁を毎日飲む人と飲まない人では発ガン率が異なり、飲まない人の方が2倍~3倍リスクが上がるという研究があるようです。残念ながら原論文を参照できませんでしたが、考慮にあたいするでしょう。
つまり味噌汁を毎日飲んでいると発ガン率が下がるということです。
このことから、「味噌汁を毎日飲むと発ガン率が下がる」が「味噌汁を毎日飲むと放射能による発ガン率が下がる」というふうになったのかもしれません。
以上のことから、「放射能による発ガン率に効果があるかどうかわからないけれども、毎日飲んでも損はない。発ガン率が下がればもうけもの」という程度にとらえておけばいいんじゃないでしょうか?
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